イントロダクション
introduction
ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)の傑作
小津安二郎を彷彿とさせる雄大な自然と
ふたりだけの宇宙
本作は、ペルー映画史上初の全編アイマラ語長編映画として話題となり、ペルー本国では3万人以上の観客を動員する大ヒット。アカデミー賞やゴヤ賞のペルー代表作品に選出されるなど国内外で高い評価を受け、近年、ペルー映画の最高作と評された。
監督は、ペルー南部プーノ県出身のオスカル・カタコラ監督。本作で、アイマラの文化・風習の中に、私たちが存在を知りながらも目を背けていた現実を、雄大なアンデスの自然と共に痛烈に描いた。ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)の旗手として今後の活躍を期待されていたなか、2021年11月、2作目の撮影中に34歳の若さでこの世を去ってしまう。本作が長編初作品であると同時に遺作となった。
今となってはオスカル・カタコラ監督の声を聞くことはできない。オスカル・カタコラ監督の死は、ペルー映画界のみならず、これからの映画表現において、間違いなく大きな損失となっただろう。
ウィルカ役は監督の実の祖父ビセンテ・カタコラが、パクシ役は友人から推薦されたローサ・ニーナが演じている。撮影は、標高5,000メートル以上の雪に覆われたプーノ県マクサニ地区アリンカパックで5週間にわたって行われた。原題の“WIÑAYPACHA”は、アイマラ語で「永遠」を意味し、時間の経過と終わることのなく何度も戻ってくる循環を表現している。
ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)とは...
ペルーの首都リマ以外の地域で、その地域を拠点とする映画作家やプロダクションによって制作される映画を指す。娯楽的なジャンル映画から作家性の強いアート映画までタイプは様々だが、いずれの作品もその地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成している。
ストーリー
story
その行き着く先は ―― 観客の心を震わせるラストシーンを目撃する
標高5,000mを越える社会から遠く離れた場所にふたり。
都会に出た息子の戻りを待つパクシ(ローサ・ニーナ)とウィルカ(ビセンテ・カタコラ)。アイマラ文化の伝統的な生活の中で、リャマと羊と暮らしていた。寒い夜を温めてくれるポンチョを織り、コカの葉を噛み、日々の糧を母なる大地のパチャママに祈る。ある日、飼っていた羊がキツネに襲われてしまう。さらに、マッチを買いにいった夫・ウィルカはその途中に倒れてしまう…。都会に出た息子の帰りを待つふたりにやがて訪れる衝撃のラスト ——
老夫婦の厳しくも逞しく生きる愛の物語。
監督プロフィール
director profile
オスカル・カタコラ
(1987年8月18日〜2021年11月26日)
1987年、ペルー、プーノ県アコラ生まれ。アイマラ族出身。プーノのナシオナル・デル・アルティプラノ大学の芸術学科で演技を学び、コミュニケーション学学士を取得。独学で映画制作を学び、17歳で、制作会社Cine Aymara Studiosに入社。その後、数々の長編映画製作に携わるなど、映画制作者としてのキャリアをスタートさせた。2007年には、監督・主演作中編映画『El Sendero del Cholo』(45分・ビデオ)を初製作。ペルー各地で上映された。その他、『La venganza del Súper Cholo』(2013/脚本)、『Aventura sangrienta』(2017/撮影監督)がある。2021年、プーノ県エル・コジャオ、山頂コントゥリリ地区にて、待望の2作目の長編映画『Yana-wara』の撮影中に死去。34歳だった。
コメント
comments
母なる大地で、たっぷりの愛情で生きる二人。なんにもないけど、静かで豊か。
小津映画のようなさわやかな後味。久々に心が満腹!
—— 鎌田實(医師・作家)
老夫婦の威厳、そして愛おしさ。しかし彼らの叫びは誰にも届かない。カメラは笛の音に聞き入る神々の気配をとらえ、観る者を震撼させる。
—— 池田香代子(翻訳家/「世界がもし100人の村だったら」)
私がアンデスで過ごした時間はたかだか2年と少しだ。それでも、忘れられない匂いや感触がある。毎日スープに入っていたチューニョ(乾燥ジャガイモ)はああやって出来ているのか。夫婦が履いているヤンケ(タイヤのサンダル)はもう何年、何十年も履いているのだろう。山肌の青々とした緑から今が雨季だと分かる。石垣の岩に張り付く原色の苔が星雲に見える。そしてここが地球と同時に宇宙でもあるのだと感じる。彼らの暮らしは遠く離れているようで意外と近い。アンデスに行ったことがある人も、ない人も、必見の映画です。
—— 藤川史人(映像作家/「スーパ・ライメ」監督)
人生に愛される才能に満ちた夫婦の暮らし。
リャマが踏む緑の草原、闇夜に光る灯、黒い岩山から流れ出す滝の白、血に染まった食われた羊。
ウィルカの魂は銀色に光るアンデスの雪山で、夭折したオスカルの魂に出逢うだろう。
残された者が歩みを進める姿に「WIÑAYPACHA 永遠」をみた。
—— ERIKO(モデル・定住旅行家)
アンデスの場所も知らず、気候も言葉もわからない。それでもつよく引きつけられる。知らない土地と文化を知るドキドキ。しかし羊が殺されたあたりから私の背筋はピンと伸びた。日本でもよくある過疎地に住む老夫婦の番組、そんなのとは桁違いな過酷な環境。見てよかった。
—— 森まゆみ(作家・編集者)
フィクション映画であるのに、見ているあいだそれを忘れる。
自分がアンデスのあの家のやさしくも厳しい暗がりに身を潜め、ずっとその暮らしを見ている気持ちになる。死も生も同列に、ただ、ポンッと手渡される。
いのちに直接触らせてもらえるようなうつくしい映画だ。
隔絶された世界に肩寄せ合って生きる老夫婦。その日常にアンデスの歴史がギューッと凝縮されている。書物や博物館で見た、古代アンデスからの生活が続いている。アンデスは時間の進み方が我々とは別次元、というのを感じ入る。
双子のようにそっくりな二人の、アイマラ語の不思議な声調が耳に残って離れない。
—— 芝崎みゆき
(ライター/「古代インカ・アンデス不可思議大全」著者)
—— 詩森ろば(劇作家・演出家)
劇場情報
Theatre
10月18日~